嗅覚障害
嗅覚(きゅうかく)障害とは、においを感じる経路のどこかに障害が起こって、においを正常に感じることができなくなる症状のことです。
においが分からないと、同時に味も分かりにくくなるため、嗅覚と味覚の2つの感覚を同時に障害されることになります。
嗅覚障害の大半は、嗅覚機能の低下ですが、軽微な悪臭にも耐えられない嗅覚過敏や、良いにおいなのに臭い(くさい)と感じる嗅覚錯誤(きゅうかくさくご:異臭症)――などもあります。
嗅覚障害の原因
嗅覚機能の低下は、
①呼吸性嗅覚障害
②末梢神経性嗅覚障害
③中枢神経性嗅覚障害
に分けることができます。
①の原因は、鼻中隔(びちゅうかく)の弯曲(わんきょく)や鼻の術後の粘膜癒着などによる鼻腔の形態異常、慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん:蓄のう症)やアレルギー性鼻炎に伴う粘膜の腫れ・鼻ポリープなどで、においの分子がにおいを感じる嗅細胞のある鼻腔奥にある嗅上皮(きゅうじょうひ)まで到達できないことなどです。
②には、嗅上皮の障害と嗅糸断裂(きゅうしだんれつ)の2つがあります。
嗅上皮の障害の原因は、ウイルス性の風邪などに感染することによる嗅上皮の萎縮(いしゅく)や炎症であることが多く、嗅糸断裂は頭を打ったことが最も多い原因で、この場合に起こる嗅覚障害は難治性です。
また、抗がん剤の1つ「テガフール」の長期投与で嗅糸断裂が起こり嗅覚は損なわれます。
慢性副鼻腔炎や通年性アレルギー性鼻炎などによる嗅覚障害は、①と②の混合型と言えます。
③の原因は、頭部の外傷や脳腫瘍(のうしゅよう)、加齢――などです。
なお、嗅覚障害がアルツハイマー病やパーキンソン病の初期症状であったということもあります。
嗅覚障害の症状
一般的に嗅覚障害の症状は次の3つのいずれかです。
①においが分からない
②においが分かりづらい
③本来のにおいとは別のにおいに感じる嗅覚過敏、あるいは、本人だけが強い悪臭を感じる嗅覚錯誤
嗅覚障害の治療
嗅覚障害の重症度や原因によって治療は異なります。 呼吸性嗅覚障害や末梢神経性嗅覚障害の治療には、薬物療法や通院によるネブライザー※などの治療が有効です。
※ネブライザー
霧状の薬剤を鼻・口から吸入することによって患部に直接薬を当てるものです。ネブライザーを行うことにより患部に効率よく薬を作用させることができるので、つまった鼻の通りを良くし、鼻汁を出しやすくしたり、鼻腔粘膜の腫れなどを鎮めることができます。
また、これらの治療と並行して嗅粘膜の局所治療としてステロイド剤の点鼻療法を行います。
ステロイド薬の点鼻および服用は、たった1つ確立された嗅覚障害に対する薬物治療です。
ステロイド薬を服用することは、アレルギー性鼻炎に伴う呼吸性・末梢神経性嗅覚障害に最も有効ですが、長期間にわたる服用は、副作用に注意する必要があります。
そこで、嗅覚障害は致命的な障害ではないため、通常は短期間のステロイド薬投与は行いますが、料理人やソムリエなどの特殊な職業の方以外は長期投与しません。
一方、ステロイド薬の点鼻は、呼吸性・末梢神経性障害の方に広く行われている治療ですが、点鼻の仕方にはコツがあります。
普通、点鼻後、頭を後ろに倒して奥まで流し込もうとすることが多いと思いますが、この状態では大半の薬液は嗅上皮まで到達しないで、咽頭(いんとう)へ下がってしまいます。
そこで、横向きに寝ていただき、側頭部を床につけ上を向き、上の鼻の穴の内側に薬液が伝わるようにすると、効率よく嗅上皮にお薬を到達させることができます。
また、ステロイド薬に先立って血管収縮薬を点鼻して鼻腔の腫れを抑えておくと、より効果が期待できます。
採血検査で亜鉛(あえん)が不足していることが分かった場合には、硫酸亜鉛の内服が有効な場合もあります。
慢性副鼻腔炎などによる粘膜の腫れや形の異常によりにおいの通路の閉鎖が著しい嗅覚障害の場合は、手術的に治療する必要が生じることもあります。
なお、中枢性嗅覚障害は原因疾患の治療が嗅覚障害の治療につながります。